※注意事項※  このお話は、クリス・ダレーシー著「龍のすむ家」のパロディです。
 TOX2キャラをメインに他シリーズからキャラがちょこちょこ出てくる現代パロ。これだけなら普通のキャラ小説ですが、D夢主と相手役のリオンを突っ込んだおかげで夢扱いになってます(苦笑)
 逆ハーではないので、リオン以外のキャラとはお友達以上にはなりません。私の趣味全開の話なので、その点を踏まえて「OK!」という方のみお進みください!ではどうぞ!




*龍のすむ家パロ1「ウェイワード・クレッセントへようこそ」




 今年タリム医学校へ進学することになったジュード・マティスは目的地を前にして、緊張をほぐそうと軽く深呼吸した。

 実家は北アイルランドの港町にあるため、イギリス本土にある医学校へ通うには寮に入るか何処かに下宿するしかない。
 寮が嫌、というわけではないのだが幼馴染のレイアも同じ学校の看護学科に入学が決まり、寮に入るのだという。
 子供の頃からの付き合いでレイアの性格を熟知しているジュードは、勉学が得意ではないレイアに泣きつかれるのが目に見えていた。頼まれたら断れない自身の性格も知っている。医者になるためにはそんな生半可なことではなれないだろう。静かに勉強するには適度に離れるのが吉、と判断したのだ。

 慣れない街を地図片手に歩き回ったが、優良物件には出会えずに始業式が明後日に迫っている。たまたま見つけた街の掲示板に貼ってあった下宿人募集の張り紙に一縷の望みを抱いて、書いてあった電話番号に連絡を入れて下見をしたいと申し出た。
 恐らく、これがハズレだった場合は寮に入ることになるだろう。
 かさり、手に持ったチラシが風に揺れる。紙に書いてある文字を視線でなぞりながら、「これ、どういう意味なんだろう……」と何度目かになる疑問を頭に浮かべた。
 謎の文章は大きく紙の真ん中に書いてある。

『下宿人募集――ただし、子供と猫と龍が好きな方』

 子供と猫は分かる。
 ジュードの父も医師で診療所を開いているため、昔からよく手伝わされていた。レイアほど得意ではないが子供の相手も苦手ではない。もう一つの条件も、どちらかと問われれば犬派と公言しているが猫も嫌いではない。猫本人に嫌われさえしなければ大丈夫なはずだ。
 問題は最後の一文字。

「龍、って……何かの比喩なのかな」

 龍、ドラゴン。
 物語に度々登場する、一般的に巨大なトカゲに似た姿で角と翼を持ち、強大な力を振るう生き物。確かにこの国はファンタジー文学に富んでいて、幽霊や精霊を信じている人間も多い。
 しかし、ジュードは実際に見たことがなかったため半信半疑だ。
 まさか本物の龍がいるわけではないだろう。そうなると……龍のように大きなトカゲを飼っているか、あるいは………

「うちに何か用?」
「うわ!?」

 答えの出ない問いをぐるぐる巡らせていたジュードの背中に、甲高い子供の声が投げかけられる。突然声をかけられてジュードは飛び上がった。後ろを振り返ると、髪をツインテールにした10歳くらいの少女がジュードを見上げている。少女がことりと首を傾げた。

「もしかして、今日来る予定のお客さん?」
「うん、下見をしに来たジュード・マティス。君はここのうちの子?」

 少女の視線に合わせて膝をついたジュードが問うと、少女は頷きエルはエル!と元気な自己紹介をしてくれた。

「よろしく、エル。ルドガーさんは今会えるかな?」
「うーん、窯焼きが終わってれば会えるよ」
「窯焼き?」

 ジュードが聞きなれない単語を反芻すると、エルは知らないの?と目を丸くした。
 どうやって説明しようか少し迷った少女は腕に抱えていた黒い物体を「これ!」と掲げてみせた。
 黒い物体の正体は龍の形をした陶器だった。龍と言っても、火を吹いて中世の乙女を攫うような恐ろしい龍ではない。かといって、漫画風の可愛らしい感じとも違う。
 かなり精巧に作っているようで、ほっそりと伸びた体は黒い鱗がびっしりと描き込まれている。二本の平べったい足で体を起こし、矢の形をした尾は背中でくるりと巻いていた。波形の翼が大きいものが二枚、小さいものが二枚の計四枚が背中から肩にかけて扇状に広がっている。瞳には翠色のガラス玉がはめ込まれていて、太陽の光を反射してキラリと光った。

「ルドガーは龍を作れるんだよ!」
「ああ、なるほど」

 得意げに黒い龍を抱きしめるエルに相槌を打ちつつ納得する。延々と悩んでいたのが馬鹿らしくなるほど単純明快な解答に安心したような、少し残念なような複雑な心境だ。しかし、これで不安要素は解消された。部屋を見て問題なければここに決めよう、と考えつつエルに笑いかける。

「それじゃあ、ルドガーさんを呼んできてもらってもいい?」
「うん!後でエルがお茶淹れてあげるから飲んでいってね!」

 少しませているらしいエルは、ジュードの腕を引っ張りながら扉を開く。ラベンダーの清々しい香りとウィンドベルの涼やかな音がジュードを迎え入れた。

「おかえり、エル!丁度良かった、そろそろお客さんが来るから呼びに……あ、貴方ジュードさん?」

 ベルの音でエルが戻ったと思ったのだろう、東洋系の女性がキッチンから顔を出した。ジュードの顔を見て少し驚いた表情をした後、ちょっと待ってて!と言い残して一度顔を引っ込めた。
 リビングにはテレビと大きめなテーブルとソファが置いてあり、あちこちに龍の置物がある。確かに龍が苦手な人は住めない家かもしれない、とジュードはひそかに思った。
 エルがジュードの手を引いてソファへ連れて行くと、ソファの上には先客がいた。

「ルルだよ。猫の王様なの!」

 ソファの隅で丸まってお昼寝をしているようだ。普通の猫に比べてかなり横に大きい。確かに王様の貫録はあるかもしれない。
 ジュードがルルを起こさないように少し離れたところに座った事を確認すると、エルは抱いていた黒い龍をジュードの正面に置く。

「じゃあエル、ルドガー呼んでくる!」
「うん、お願い」
「それまでパパとお話でもしてて!」

 パパ?とジュードが尋ねるより早くエルは軽やかな足取りで奥の廊下へ消えていく。答えてくれる相手がいなくなって、仕方なくエルが置いて行った龍をじっと見つめる。
 よく見ると鼻筋が細く、スマートな印象を与える顔だ。鋭い翠の瞳の奥に、燃えるような誇りを宿し、自分が得難い存在で、この世に確固たる居場所があるのをわかっている、そんな風に訴えているようだった。……ついでに、エルの発言のせいでエルが近づいて安全な人物か値踏みされているようにも感じてしまい、微妙に居心地が悪い。
 ぶんぶんと被りを振ったジュードは気を取り直して龍を手に取った――そしてもう少しで落としそうになった。冷たい陶器であるはずなのに、指から伝わった温度は全く別の物だった。

「あ、温かい……!?」
「エルがずっと抱いていたからじゃないかな?」

 思わず声に出ていた感想に、先ほどキッチンへ消えた女性が苦笑しながら相槌を打ってくれた。彼女が持つトレイにはお茶と手作りスコーンが載っている。後ろにもう1人、人数分のカップを用意している黒髪の青年の姿もあった。

「私、ここの住人のっていうの。こっちはリオン」
「ここの大家はインスピレーションが湧くとアトリエに篭る癖がある。少し待ってもらうことになるが時間は?」
「大丈夫です。僕が少し早めに来てしまったのもあるし……おふたりはいつからここに?」

 リオンの問いに頷き、出された紅茶とお茶請けを口にする。おいしい。スコーンはルドガーが生地を作ったものだとが教えてくれた。ルドガーは料理も得意だからご飯も楽しみにしてて、とのことだった。

「丁度1年前かな。私とリオンも近くの大学へ通うためにここに下宿してるの。今は仕事でいないけど、あと1人ジュディスって女の人が住んでるよ」

 3人でこの家での大まかなルールや近場でおすすめな店などを話している間に、エルがルドガーを連れて戻ってきた。

「お待たせ。俺がルドガー・ウィル・クルスニク。ようこそ、ジュード」

 エルが連れてきたのは、ジュードとさほど年の変わらなさそうな青年だった。
 困惑しつつも笑顔と共に差し出された手を握り、握手を交わす。「早速だけど、部屋に案内するよ」と廊下を歩いていく。とリオンが「機会があればまた今度」とリビングで見送ったのに対して、エルはジュードがここに住むのか気になるのか先ほどの黒い龍を抱いてついてきた。

「ここが空き部屋。まだ片付けたばかりだから何もないけど、机とベッドは提供するよ」
「それだけ家具を用意してもらえれば十分です」

 ベッドと机を置いても十分なスペースが残る広さだし、窓も大きめで日当たりもよさそうだ。よし、と意を決してくるりと振り返るとルドガーとエルに向き直る。

「……決めました。もしあなた方と龍たちがいいと言ってくださるなら、すぐにでも移りたいと思います」
「やったぁ!エルね、ジュードとお話ししたいこといっぱいあるの!」

 エルがはしゃぐのを見てルドガーは「ジュードは勉強のために下宿するんだから、ほどほどにしてくれよ」とたしなめている。確かに長時間は困るが、少しなら気分転換にもなるだろう。

「楽しみにしてるよ、エル。ルドガーさんも、お世話になります」
「ルドガーでいいよ。歓迎するよ、今日から君は――この家の家族だ」

 エルを宥めつつ、ルドガーも嬉しそうに目を細めた。リビングに戻り、エルが淹れる用の(リビングを出る前に頼んで行ったらしい)紅茶を準備していたとリオンにここへ住む旨を伝えると、「そう言ってくれると思った!」と喜んでくれていた。
 近いうちに全員で歓迎会をしてくれるという。それを思えば、大変な荷造りだって楽しくできてしまいそうだ。
 夕食までごちそうになり、数日滞在したホテルのベッドに寝転がる。これから始まる個性豊かな住人達と不思議な龍に囲まれた新生活に、ジュードは想いを馳せながら目を閉じた。






*あとがき*

書きたいことが多すぎる+私の悪い癖ですが文才ないのに登場人物を増やしすぎるせいで一時収拾つかなくなりました(笑)今回はジュードとルドガー、エルと龍(ヴィクトル)中心です。どちらかというと、今回のジュード君はX2じゃなくてX仕様です。
書けなかったところは次回ですかね^^私の趣味しか詰まってないお話ですが、気が向いたら更新するのでお付き合いよろしくおねがいします!
(2014/05/22)