青い空が広がる帝都ザーフィアスの下町。清々しい朝日を浴びて、ユーリは自宅として使っている宿屋の近所に住む友人の部屋の前にいた。
「おーい、いるかー?」
ユーリは片手で荷物を抱え、友人の部屋を些か乱暴にノックして声をかける。この時間帯なら起きているだろう、と家主が出てくるのを待っていたが出迎えたのは家主の声だけだった。
『ユーリ?今手が離せないから勝手に上がって〜』
「…ったく、しょうがねぇなっと」
鍵は開いてるから〜と続く声に、ユーリはドアノブに手をかけ室内に入る。
「おーいどこだ?お前の届け物預かってんだけど」
『こっちこっち〜』
決して広くはない室内を見渡すも彼女の姿は見当たらない。声を頼りに進んでいくと、目の前に扉が現れた。何度か入ったことのある彼女の部屋で唯一入ったことのない部屋だ。呆れを含んだ声でユーリは呟く。
「な、おま、寝室かよ……」
『まぁ、ちょっとね。入っていいよ』
「…流石にそれはまずいだろ。」
恋人でもない男が一人暮らしの女の寝室へ入るなんて。間違いでもあったらどーすんだ。
入るのを躊躇い立ち止まるユーリだったが、当の本人は気にした様子もなく続けた。
『だーいじょぶだって。今日は絶対そんな気起きない。あたしが保証する』
「わかんねーぞ?俺だって男だぜ?」
『あーもう!女のあたしがいいって言ってるんだからいいの!さっさと入る!!』
「おーおー、おっかねぇの。んじゃ遠慮なく…」
本人がいいと言っているのだから、と開き直ったユーリにもはや躊躇いはなかった。
ガチャリ、と扉をあけるとベッドの上から顔だけ覗かせているが手を振って出迎える。
「おはよーユーリ」
「おはよーユーリ、じゃねぇよ。起きてんならなんでベッドにいるんだ?」
「…知りたい?」
がにやりと笑いながら聞いてくる。そんな顔されたら嫌な予感しかしない。ユーリが取るべき行動は一つだった。
「………知りたくない。ってことで荷物ここに置くぞ。用事終わったし俺帰るわ」
「ちょ!待ってよ、珍しいものみせたげるから!」
「…珍しいもの?」
の切り返しはユーリの興味を引いたようで、部屋を出ようとに背を向けていたユーリが振り返った。
「ほらほら。じゃーん」
「ん?…手、か?」
が被っていた掛け布団をめくると、パジャマを着た彼女の体が現れる。ユーリの目に留まったのは彼女の腹部に回された色白な男の手。彼氏がいるに堂々とこんなことができる相手をユーリは一人しか知らなかった。
「もしかして、これフレンか!?」
「うん。さすがユーリ。よくわかったね」
驚いて思わず後ずさるユーリを満足そうに頷くの後ろをよく見れば、と布団のわずかな隙間に金髪が見える。
生真面目・誠実を地で行くフレンは相手が恋人のであっても(それ以外はまず起こり得ないが。)人前でいちゃついたりなどしないから、こんな姿を見るのは確かに珍しい。
「帰ってきてたのか…っつーか、あんだけ騒いだのに起きなかったのか…!?」
先ほどまでとユーリは扉越しに会話をしていたのだから、もそれなりに大きな声を出していただろう。…なのに、フレンは未だに眠り続けている。
フレンの寝起きはそんなに悪かっただろうか。いや、悪くなかったはずだ。過去の記憶を引っ張り出しても、だらだらとごろ寝をする自分を叩き起こしていたのはフレンのほうだ。唖然とするユーリにが「そうみたい」と相槌を打ち、回された腕に触れる。
「なんか相当疲れてたみたいで、昨日も小隊長就任祝いに食事だけしてお城帰る予定だったんだけど、無理っぽかったから泊めたのよね。…でさ、ユーリ。お願いがあるんだけど」
「…なんだよ」
…来た。予想通りの展開に溜息を吐く。しかし、ここに残った時点で拒否が通らないことを悟っているユーリは先を促した。
「どうせ朝食まだでしょ?私のキッチン使って3人分朝ごはん作ってくれない?」
「そこから這い出るか、フレン叩き起こしてお前が作るっていう選択肢はないのか」
「それができるならもうやってる。」
「…だよな」
最後の悪あがきに指摘してみても、に真顔できっぱりと言い切られてしまえば同意せざるを得ない。自分で言っておいてなんだが今のフレンを叩き起こすのは至難の技だろう、とユーリは思う。
「それに…あんな騎士団の中にいたらストレスも多いだろうから、ここでくらいゆっくりさせてあげたいな…って思って」
「…あー…まぁ、な…」
以前騎士団に在籍していたユーリには自分の性格が騎士団に向いていなかったことを差し引いても、その辛さは痛いほどよくわかっていた。昇進すれば尚更のこと、苦労も増えるだろう。
「…わかったよ。作りゃいいんだろ、作りゃ。食材はあるもの適当に使っていいんだよな?」
「うんもちろん。ありがとね。今度何かおご――」
「気にすんなよ。俺も飯食えるわけだし?それでチャラって事で。」
「ダメダメそんなの。届け物してもらったお礼もあるし、今度お菓子作った時におすそ分けする!」
「ははっじゃーありがたく頂くとするかな。楽しみにしとくわ」
ユーリは笑ってそう言うと、キッチンに消えていった。
***
誰かが髪を撫でている感覚にすうっと意識が浮上する。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる、穏やかな朝。抱きしめている温もりと彼女の匂い。ああ、そういえば昨日は彼女の家に泊ったんだっけ。とぼんやりとした頭で記憶を辿ったフレンは夢心地のまま彼女の名を呼んだ。
「ん…………?」
「おはよう、ねぼすけ。ほら、起きて。今日も午後から勤務なんでしょ?」
「んん…もう、少し…」
この心地良い時間が名残惜しいフレンはぎゅうっとを抱き直して瞼を閉じようとしたが、それを邪魔するように聞き覚えのありすぎる幼馴染の声が降ってきた。
「いつまで寝てる気だよ。俺が愛情込めて作った飯が冷めちまうだろーが」
食欲をそそる香ばしい匂いとともにカンカン、とフライパンを何かで叩く音。ここにいるはずのない…否、いてほしくない人間の声にフレンはガバリと起き上がる。
声のしたほうへ視線を向ければ、寝室の扉に身体を預けているエプロン姿のユーリがいた。フレンの起き抜けの顔が面白いのか、ユーリは悪戯が成功した子供のような顔をして笑っている。
「ユー…リ!?なんで君がここに…」
「お前がを抱き枕にして爆睡してるせいで俺が朝飯作るハメになったんだよ」
「そ、それは…悪かった。」
気まずそうに視線を逸らして謝るフレンにユーリは喉を鳴らして笑う。顔が赤いことは黙っておいてやろう。からかわれていることに気付いたフレンに睨まれたが、ユーリは気にせず続けた。
「騎士団が忙しすぎて中々会えないのはわかるけどよ、の充電はもう少し小まめにしてもらわないと周りに迷惑がかかるだろ」
「じゅ、充電って…」
「だっていつもの倍は眠り深かっただろ?」
「う……それは、ここ連日徹夜続きだったから…」
「あたしもそのほうがいいな―あたしだってフレン充電したいし」
「までっ!!」
「よかったじゃねーか。まだ愛想はつかされてないみたいだぜ?」
ユーリの言動に呆れながらも寝坊の言い訳をしていたフレンだったが、がユーリに同意してしまったので思わず声を荒げた。嬉しい言葉ではあるのだが、親友とはいえ同性の友人がいる前で言われるのはこの上なく恥ずかしい。
「君たちはもう少し恥じらいというものを……!!」
「そんなことよりユーリ、出来たの?」
フレンお得意のお小言が始まったところで、はユーリに話題を振った。意図を察したユーリが頷く。
「おぅ。タイミング良かったみたいだな」
「うん、ばっちり!じゃあ、あたしとフレンは顔洗ってくるね。フレン、いこ!」
「え?ちょっと!僕の話聞いてたかい!?」
「聞いてた聞いてた!恥じらい持てって話でしょ?ほら、早くしないと料理冷めちゃう!」
洗面台へ向かう二人を見送りながら、なんだかんだで仲の良い二人にユーリは苦笑する。
「…さて、あいつら戻るまでに仕上げをするとしますか」
青い空が広がる帝都ザーフィアスの下町。この日は久しぶりに食卓を囲んで朝食をとった3人だった。
*あとがき*
…最後のフレンの扱いがひどすぎる…(笑)←自分で書いておいて!↓救済おまけ
時期的にはゲーム開始より少し前。思った以上にユーリさんが動かしやすいです。なんだかんだ言いつつ世話焼いちゃうユーリが好き^^もうユーリの出番が多すぎてフレン夢と言っていいのかわからない(笑)(10/03/24)
「ねぇフレン……」
フレン「?終わったなら先に行っていいよ?」
「…さっき恥じらい持てって言ったのはフレンじゃん」
フレン「言ったけど…それがどうかした?」
「…ユーリ呼んだのはあたしだけど、今戻ったらいつおはようのキスしてくれるの?」
フレン「!…君が望むのなら今すぐにでも。」
「じゃあ今すぐ!!」
フレン「…了解」
フレンはスイッチ入るまでは照れまくるくせにスイッチ入るとすごそう。なんたってむっつりスケベさん(笑)