カイル達と再び行動を共にするようになって少し経つ。
ジューダスはパーティの一人である少女から目が離せなくなっていた。気付くと彼女を視線で追っている。

彼女の名は・シュタットフェルト。考古学の学者だという。
カイル達とはアイグレッテの遺跡の中で知り合ったらしく、ジューダスがカイルと再会した時には、すでに少女の姿はそこにあった。
彼女に興味を持ったきっかけは、ほんの些細なことだ。


野営の準備のために、カイルとリアラが出払っていた時だった。


残った、ロニ、ジューダスで食事の支度をしていて、たまたま上がった先の動乱の話の最中だった。話を振られたは凛とした表情で言い放った。

「伝説や歴史が正しい史実とは限らない。その真偽を解明するのが私達の仕事よ。だから、今の時点ではリオン・マグナスが悪人だったかはわからない」
「なんでだよ!リオンがスタンさん達を裏切ったのは事実だろうが!」
動乱の中で両親を失ったロニは、歴史の定説に異議を唱えるを理解できなかったのだろう。思わず怒鳴ったロニには怯むことなく疑問を投げかける。

「そうかもしれない。じゃあ、何故彼は仲間を裏切らなければいけなかったの?死ぬかもしれない高いリスクを負ってまで裏切らなければならない理由を考えたことはある?」
「そ、それは……奴が根っからの悪――」
「だから、そういう先入観は考古学には御法度なのよ」
答えに詰まりながらも反論してきたロニの額を、は手に持っていた指示棒でべしりと叩く。
「〜〜〜っの話だって、確証があることじゃねぇだろ!?」
「私は別に仮説を挙げただけよ。定説ばかりに固執すると見えなくなるものがある、そう言いたいだけ」
叩かれた額を押さえたロニが情けない声を上げるが、の表情は冷静なままだ。

「みんなー!お待たせ!…あれ、難しい顔して何してるのさ?」
「……」
「……」
「…なんでもない。カイル、急がなければ日が暮れるぞ」
「あ、うん!わかった!」
重くなっていた空気を感じてきょとんとしているカイルをジューダスがいなす。共に戻ってきたリアラも首をかしげながらに聞いてくる。
「…、本当に何もなかったの?」
「うん、ちょっと議論してて熱くなっちゃっただけだから」
「そう…」
カイル達が戻ったことで、険悪になりつつあったこの討論は終了した。


我ながら単純だと、ジューダスは思った。
世界中の誰もが裏切り者と罵るリオン・マグナスを肯定的にとらえる少女。
気になることはもう一つあった。懐かしい彼女と同じ、艶やかな黒髪と優しげな瞳。もしかしたら、彼女は―――



「ジューダス。見張り、代わるよ」
野宿の見張りをしながら思案に耽っていたジューダスに、先ほどまで眠っていたはずのが声をかけた。
「まだ必要ない。もう少し寝ていろ」
「そう?じゃあ…隣、座ってもいい?」
「……好きにしろ」
今の彼女に寝る、という選択肢はないらしい。ジューダスの返答にはありがとう、と礼を言って隣に座った。

「…ロニにはあんな風に言ったけど、私が考古学に興味を持ったのはリオンさんのおかげなの。」
「………………。」
討論の時の話をしているのだろう。沈黙を守ったままのジューダスに構うこと無く、は話を続けた。
「私の母さんは昔、動乱の中心にいたオベロン社のお屋敷で働いていたの。私は小さいころからずっとリオンさんやスタンさんの話を聞いて育った。…だから歴史書の記述に違和感を感じたわ。そして真実を知りたいと思った」

今のの話は決定的だった。ジューダスの予感は的中していた。
予想していたとはいえ、全く動揺がないかといえば嘘になる。感情を押し殺した声でジューダスは口を開いた。
「…何故そんな話を僕にする」
「今までこんな話、誰にも話したこと無かったのよ?…ジューダスは母さんが話してくれたリオンさんによく似ている…気がするの。だからかな?」
照れくさそうに話すの言葉を聞きながら、ああそうかとジューダスは納得する。妙に視線を感じると思った。彼女と目が合うことが多かったのは偶然ではなかったのだ。
お互いに相手が気になっていた、ということだ。

「…ひとつ、聞いてもいいか?」
「私に答えられるものなら、なんでもどうぞ」
「お前の母親は…幸福に生きれているだろうか」

の瞳が、驚きに見開かれる。
この時代のマリアンに、会おうとは思わない。それでも、どうしても知りたいことがあった。その答えを、彼女は知っている。
「え、ええ…それなりには幸せだと思うけど…どうしてそんなこと聞くの?」
「フッ……近いうちに教えてやる」
困惑したままの表情では答えた。ジューダスは彼女の疑問に答えること無く立ち上がる。
「え?ちょっと…」
「少し休む。元々見張りの交代に起きたのだろう?」
「…わかったわ。話してくれるのを楽しみにしてる。…おやすみなさい」
これ以上追及しても無駄、と判断したは苦笑しながらジューダスの背中を見送った。

…彼女に真実を話す日は遠くないだろう、とジューダスは感じていた。
彼女がマリアンの娘だからというだけではなく、という人間に興味が湧いたのだ。目の前にいる人物が、リオン本人だと知った時…彼女はどんな反応をするだろうか。
そんなことを考えながら仮眠をとる為にジューダスは瞳を閉じた。




*あとがき*
ジューダス夢ではベタなマリアンの娘ヒロイン。一度やってみたかったんだ^p^
2人ともこの時点では恋愛未満ですね。裏設定としてはヒロイン→リオンの片想い設定。